虹色パワー
あれは二十数年前、姉が2歳の長男を連れて里帰り出産に来ていたときのこと。私は、仕事が休みの日には、甥っ子と一緒に歌をうたったり、手をつないで散歩をしたり、「にわかおかあさん」を楽しませてもらっていた。
幼児の歩幅に合わせて歩くことはとても新鮮だった。道で誰かに会うごとに「こんにちは」を言う甥っ子、それにならって、もぞもぞとあいさつする私。道ばたに咲く花、落ちている葉っぱを手に取っては裏から表とじっくりと眺め、興味津々に「これなあに?」と聞いてくる。そんなひとときは、おとなになってすっかり鈍ってしまった「純」な気持ちを思い出させてもらっている感じがした。
そんな甥っ子は、手をつないで商店街を歩く時、万代にそびえるレインボータワーが目にとまるたび「あれなあに?」とかわいらしく指さしをし、聞いてきた。
「あれはねレインボータワーだよ」と答えると、彼はにっこりと「れんぼうぱわぁ?」と、こくびをかしげて聞き返してきた。くりかえし、何度も。
その仕草がかわいらしくて、いたずらな私は「うん、そうだよ、レインボーパワーだよ」と返し、「れんぼうぱわぁ」と、満足そうな甥っ子と笑いあった。
その後、何年かして私も母となった。子どもはかわいい、大好きだと思う気持ちは確かだけれど、「子育て」は楽しいことばかりではないとしみじみ感じる。泣きやまぬ子に手を焼いた乳児期、だだこねに気持ちがすり減った幼児期、ややこしさいっぱいの思春期…。
ゆらゆらと揺れたり、すり減った気分のときは、あの時の甥っ子の「これなあに?」「あれなあに?」を思い出す。可愛い指さしと笑顔、つないだ手のみずみずしい感触と温かさ。そして「子どもっていいなあ」と浸っていた、あの頃の私。
ほのぼのとした思い出は、いつしか虹のように重なり、こころの霧を取り払ってくれる。虹色のパワーで充電!
おとなになるっていろいろとあるものだね…と思いつつ。